妻が営むカフェとそこに併設される設計事務所の日常

妻が営むカフェ「お茶とお菓子 まやんち」の改装に伴い、昨年(2018年)11月より、
店内に私の事務所スペースを造り、同居しました。半年が過ぎやっとペースがつかめ始めたところです。

「まやんち」は、JR蒲田駅近くのマンションの一室にあるカフェ
(コーヒーがなくて紅茶を出す店なので正確には「ティールーム」でしょうか)です。

お菓子は全て店内で手作りします。保存料や安定剤、代替品を使わず手間を惜しまず正しい材料を使い正しい作り方を心掛けています。
お茶は世界中の産地から集め、ティ-リストに常時40種類リストアップしています。オーダー毎に茶葉にあった淹れ方を丁寧にしています。

素材を大切にし、美味しいことにこだわってやってきました。

マンションの規約で看板も出せず、始めた頃はお客様の数も少なく、まさに「隠れ家カフェ」でしたが、
おかげさまで人づてにじわじわと広まっていき、12年経った今では行列して頂けるところまでになりました。

私はといいますと、「まやんち」を始めたとき、加藤武志建築設計室に勤め始めて半年位でした。
通勤電車の中でスケッチをし、朝、出勤前に「まやんち」の現場に立ち寄り打合せをしてお店を造り上げました。
お店がオープンしてからは、仕事の帰りに立ち寄っては運営や集客について妻からの沢山の要望を受け解決の算段をし、
休みの日には皿洗いのお手伝いや家具の製作、備品の調達をしていました。
妻も私も飲食店の経験がなく始めましたので、その都度問題を解決していくことを繰り返しています。
今現在も試行錯誤の連続です。
私が独立し設計事務所を開設したのが6年前ですが、「まやんち」の近くだと私の本業がカフェ経営になってしまいそうなので、
自転車で10分ちょっとの所に事務所を構えました。それにもかかわらず、週の半分近く「まやんち」に通う羽目に…。
妻には、一人で気楽にやっていると思われていました!

「まやんち」を始めたときは30代だったので、かなり無理もききましたが、間もなく50歳。
人手不足、仕込み量も半端ではなく、これを続けていたら妻の体が(僕もですが)もたないと思い
「おばあちゃん」になっても続けられる店を目指して改装に踏み切りました。

結果、店の規模を縮小したので、私の事務所スペースが取れるのではという話になり、私は抵抗したのですが、
妻の強い要望により同居する運びとなりました。

店の常連さんや、教室(お菓子教室もやっています)の生徒さんたちに改装を告知した時に
「ティールームと設計事務所が同居するのですか?設計事務所の仕事をここでするのですか?そんなに小さい場所で?」
とハテナなリアクションでしたが、実際に出来上がったものを見てもらうと、「こんな部屋自分も欲しい!」とか、
常連さんの大学教授の方は、「書斎の参考になるなぁ」と。
また、「うちの子に職業について意識をさせたいので、事務所を見せていただけますか」と親子で見学のリクエストもありました。
お茶をしにいらしたお客様から、古い空き家の利用方法のことで声を掛けられたり、
教室の生徒さんから家の不具合の相談をされたり(雨漏りする家が結構あるということを知り驚いています)と、
直接仕事に繋がるわけではありませんが、なんだか敷居が高いとか、こんな事を聞いたら高額請求されてしまうのかな、
と思われがちな設計事務所という仕事への誤解が多少解けたように感じています。

やっとペースがつかめてきたところですが、日常的には、
朝出勤したら、それぞれのスペースでそれぞれの仕事をしていますが、時々妻から、
「洗い物を手伝って」とか「タルトの敷き込みやって」と声がかかります。
店が忙しいときは、率先して皿洗いのお手伝いを!今のところ、良い気分転換の範囲にしているつもりです。

衣食住のうちの2つ「食」「住」が共存する場所で、沢山の方々の生活の質の向上に貢献していきたいと思っています。
ティールームで僕を見かけたときは、気軽にお声掛けください。

※この文章は、リビングデザインセンターOZONEの会報誌「o-cube」より執筆依頼を頂いた時に寄稿したものを現況に合わせて加筆修正したものです。